ああ、なんて優雅なひととき。警備関係の仕事をしていた頃が嘘のようだなぁ。
暖かい季節とはまた別の、邸内では中庭とされるこの場所には温室がある。空調によって一定の温度に保たれたこの室内は側面がガラス張りになっていて、周りには季節を彩る庭同様に、美しく咲き誇る花や木々。
カフェテラスで見かけるようなサイズのテーブルとチェア(デザインはもっと華やかである)もあり、ちょっとしたリサイタルも可能な広さを持つ特別な場所だ。
花園と言うのだろうか。ここは、奥さまや景吾坊ちゃんがピアノやバイオリンを奏でたり、冬場にはティータイムを楽しんだりする場所なのだ。
ここまで説明すればお分かりだろうが、今、景吾坊ちゃんは優雅にピアノの演奏中である。
手が大きくなるにつれて弾ける曲が増えた坊ちゃんは、テニスほどではないが、ピアノを弾くのは嫌いではないようで、こうして気が向いたときなんかには俺の前で弾いてくれる。
もう既に一応のお稽古レベルを超えていて、何とも言えない感動が。すごいなぁ、俺のご主人様は。
いつもはラケットを力強く握る指が、今は軽やかに鍵盤を叩き、滑らかに動き回る様は本当に凄い。そこから伝い生まれる音の粒が目に見えるようで、ここが天国か、と一瞬アホなことを思った。いや、ある意味天国だけどな。
ああ、このままずっと聴いていたい……なんて考えたのがいけなかったのか、瞬きをした瞬間、激痛が走った。
ぐあッ、睫毛が目にッ……あ、やべ。コンタクトずれた。
もうすぐ、の誕生日が来る。俺の執事としてこの家にきてから何度か迎えているため、今更ではあるけれど、いつも俺の誕生日には最高のお祝いをしてくれるを、俺も祝いたい。
この家で初めて誕生日を迎えた年は、俺はまだの誕生日を知らなくて、来年は絶対に祝うのだと決めていたのに、結局次の年も祝えず今に至る。勿論、遅れても「おめでとう」という言葉は贈ったが、それだけだ。
……いや、別に心を込めた言葉ならそれで良いとは思うが。も(たぶん)喜んでくれたし、俺だって物を贈ることが祝うということではないと思う。
それに、今の俺が何か形として残るプレゼントを買って、それをにあげるのは何か違うと思うのだ。だから手紙を書くだとか、そういうのも考えてみたがイマイチしっくりこない。
もっとの心に残るような、素敵な誕生日にしたい。だって、あいつはいつも俺にそれをくれるから。
……手作りか? でも何を作るんだ。……誕生日だから、ケーキか?
作ったことはないが、うちのパティシエに教えてもらえば、なんとか……いや待て。が甘い物が苦手だったらどうしよう。とんでもなく逆効果になってしまうじゃないか。
「景吾様?」
不意に聞こえた声に、一瞬気付くのが遅れた。だ。どうやら俺は、いつの間にか長湯をしていたらしい。広々とした浴槽と適度な温度の湯は心地良いが、手を見てみれば、指先の腹がふやけ始めていた。
もう上がるとに告げて、湯船から出る。先に洗っていた髪から少し冷たい滴が肩に落ちて、温まり過ぎた肌には心地良い。触ってみると、すっかり冷えていて、もう一度温かい湯を浴びるかどうか少し迷った。
でも、身体は十分すぎるくらい温まってるしな……。
そんなことを考えながらバスタオルで軽く身体を拭き、緩く包まりながらペタペタと歩く。でも結局、髪だけ冷えたままで脱衣スペースに続くドアを開けた。この髪に触れたら、は風邪を引くだろうと怒るだろうか。
奇しくも、そう思った瞬間、決して寒いわけではないのに反射でくしゃみをしてしまった。なんてタイミングが悪いんだ!
「おや、湯冷めですか?」
「えっ、いや、じゅうぶん温まったぞ」
ほらみろ、うっかりくしゃみなんかしたから、に怪しまれてるじゃないか。
身の回りのことは自分でやろうと自立を決意したというのに、するするとバスローブを羽織らされて……まあ、決意したと言いつつも、未だに髪を乾かすのはにやってもらっているのだが。
……ああ、そうだ。これは俺の甘えだっ! でも仕方ないだろう!? すごく気持ちよくて安心するんだ!
「っ……」
「確かに、お身体は冷えていないようですね。どちらかというと火照りでしょうか」
そう言って頬に触れてくるの手が気持ち良くて、自分が思っていたよりも長湯をしてしまったことを知った。ダメだな。ここ最近の俺は隙が多すぎる。いずれ帝王となる人間として忌々しき事態だ。
ただでさえは何か気付いているような節があるというのに。こいつは優秀だから、このままでは本当に俺の悩みの正体が何なのかバレてしまう可能性が……。
「……平気だ。それより、隣の部屋で待っているように言っただろ」
「申し訳ありません」
まあ、きっと俺を心配してのことだろうが。待っていろと言われずとも部屋を快適な状態にして俺を待っているのがだし、いつまでも風呂から出なければ心配して当前なのだから。結局、の誕生日に何をあげるかも決まっていないし、少し自己嫌悪だ。まったく。
しかしいつまでもウジウジして落ち込んでいるわけにもいかない。そんな俺なんて俺ではないのだからな! 心の中で自分を奮い立たせて、気分を一新するために大きく深呼吸をする。
「、いつものように頼むぞ」
「はい。心得ておりますよ」
そう言って隣の部屋に続くドアを開けるは、俺が入ってから後を付いてきたくせに、ソファに座る頃には既に準備万端で傍に控えていて流石としか言いようがない。
昔はあまりのスムーズさに驚き、その行動原理や、あわよくばの弱点を見つけようとインサイトを用いて試みたが、結局は謎のままで今に至っている。それを本人に問うたところで、謎が深まるだけだったしな。
ただ、だから可能なのだと割り切るようにしているが、それでも興味があるのは確かで。
このの謎スキルについては、いつか俺も極めてやろうと密かに独学で頑張っているのだが、今のところ成果はない。なにか利点のようなものを上げるとすれば、インサイトの精密さが上がったことだろうか。
例えば、去年のジュニア大会で、いつになく楽に勝ち進み初優勝を果たしたこと。
の弱点や死角を突いて驚かせてやろうと息巻いていた俺は、どうやら自分でも気付かぬうちに眼力や動体視力を鍛えていたらしいのだ。
しかしその後。祝いの言葉と共に思わせぶりな言葉を口にしたに、まさかお前はこれを見越して俺を泳がせていたのか、と勘繰ったのは言うまでもない。
「髪が冷えておりますね」
「……湯に浸かっている間に冷えただけだ」
ふわりと首に置かれたタオルは柔らかくて、ほのかに香る清潔な匂いは俺のお気に入りでもある。がタオルの端を手に取り、髪から伝う水気で濡れている耳を、そっと優しく拭っていくのはいつものこと。
こういう時、主人とはいえ、俺のことをあまりにも大切に扱うから、初めの頃から数年経って成長した今は照れくさい気持ちもなくはない。
それでも、この心地良さは俺にとって一番の安らぎで、密かなご褒美の時間でもあるから、どうしてもやめられないのだ。
「長湯をするほど、何か考え事でも?」
「……」
「私で宜しければ、いつでも話して下さいませ」
こ、これはどういう意味だろう。まさか俺の悩みがバレているのか? いや、今の言い方だと、多分気付いていないはずだ。多分……。
ああ、それにしても本当に気持ちいいな。そこらの美容師より上手いぞ、お前。マシューも上手いものだったが、はプロフェッショナルさえも超えるのだな……。
執事とはこんなことまでパーフェクトにこなせるのか。俺も見習って、全てにおいて完璧にこなせるように努めなければ……。
「景吾様、今日はこれでお休みになられますか?」
不意に掛けられた声に、いつの間にかうとうと微睡んでいたことに気付いた。内心でハッとしたのを隠して、そ知らぬふりでドライヤーからの温かい風を受ける。
「そうだな。今日はもう寝る」
「では、そのように」
はそう言うと同時にドライヤーを止めた。俺が満足している間に火照っていた身体も落ち着いていて、寝間着に着替えて戻ってくると、既にさっきまでのタオルやドライヤーは片付けてあった。本当に、一つ一つ、何をするにしても完璧な男だなと改めて思う。
そこを通り過ぎて寝室に向かえば、やはりはドアを開けて待っていた。お休みなさいませ、と言うに俺も「おやすみ」と返しながら、そういえば、とこの前のハロウィンでのこと思い出した。
あの日、友人を招待するからと頼んでおいたら、は見事に会場となる一室を小物から何からハロウィン一色に染め、仮装も含めプロの犯行かと思うほどの演出で楽しませてくれた。
ハロウィンではお決まりの文句を言われる事も予想していたのだろう。悔しいことに、は用意周到と言えるほどにお菓子を持っていた。
今思えば、あれも謎だ。飴やらキャラメルやらチョコレートやら、中には一体どこに隠し持っていたのかと思う物もあったからな。しかも異様に凝っていたような……。
「なあ、」
「はい」
「……甘い物、とか、実はけっこう好きなのか?」
「実は、という部分が些か気になるところですが」
「じゃあ普通に聞く。甘い物は好きか?」
の言葉を遮って聞き直す俺を、急に何を言いだすんだと思っているのかもしれないが、これは重要なことだ。そんな俺の意気込みなど知らないだろうは、そうですね、と相変わらずの無表情で静かに応えると、更に言葉を続けた。
「機会があれば口にする程度ですが、好きですよ」
「そ、そうか」
これはいけるんじゃないか? 滅多に食べないというのも、手作りのケーキをプレゼントとして贈るにはぴったりだ。
よし、明日から特訓だ! には気付かれないように、こっそりと実行しなければいけないから、厨房のスタッフやメイドにはには秘密にするように言っておこう。
そうだ、マシューにも協力してもらって、俺が特訓をしている時はが厨房に来ないように見張っていてもらおう。
「あ! 甘い物は全部好きなのか?」
「特に苦手なものはありませんよ。以前に奥様から我々へと頂いたチーズケーキも、美味しく頂きました」
「そういえば、そんなこともあったな……」
確かに、あの店のチーズケーキは絶品だ。俺は甘い物が大好きという訳ではないが、あのケーキを初めて食べた時は何個でも食べれそうだと思ったものだ。
「そうか、もあのケーキを食べたんだな」
「ええ」
「……ケーキも、どんなものも好きなのか?」
からケーキの話題を上げてくれたこのチャンスに、ぜひ聞いておかなければ。
そう思って、さり気なさを装いながら尋ねてみる。は(たぶん)少し考えているような間を空けたが、その間もそつなく動いていて、俺をベッドに促しながら口を開いた。
「そうですね、好きです。ただ、」
ただ!? なんだ? フルーツが沢山乗ったものとか、苺が好きだとか? 生クリームよりもシフォンのようなものが好きだとか!? なんでも言っていいぞ!
「甘さが控えめなものが、より好きではあります」
「そうか! 俺と同じだな!」
「そうですね。思い返せば、私は幼い頃からチョコレートなどはビターなものを好んでおりましたから」
チョコレートケーキか! それもいいな。確かに、生クリームがたっぷりとデコレーションされた苺のケーキよりも、ビターチョコでコーティングされた大人な感じのケーキの方がには似合っているな。
「よし、完璧だ!」
「それはようございました。では、」
「寝るぞ!」
「はい。お休みなさいませ、景吾様」
あれから十日が過ぎた。俺はに最高のケーキを食べてもらうために毎日ケーキ作りの修得に励み、失敗を重ねてはやり直し、試食をしては改善し、今日この日を迎えた。
そう、今日はの誕生日だ。
ケーキは完璧だ。一晩寝かせた方がしっとりするらしいので、昨晩の内に作り終え、冷蔵庫にしまっている。予行練習として前日に作った完成作品の味見をしたが、本当に完璧だった。
何年も修行をして自分の店を持つ一流のパティシエには劣るだろうが、俺の全力を持ってして心を込めて作ったケーキの味は、胸を張って出せるくらいには自信がある。
今、冷蔵庫の中でその時を待っているケーキも、一番の出来だと自負している。
のお祝いは夕食後にするとして。やはり執事の仕事が一段落する時間帯の方が良いか?
俺との部屋は隣だから、移動の手間は省けるが。もういっそ、いつも髪を乾かしてもらっている時間を使った方が効率が良いかもしれない。そうだ、いつも紅茶を飲む時にこっそりとケーキを運んでもらえばいい。
いつもが持ってくるように言っているのだろうから、その時に内緒で持ってきてもらって、さり気なさを装ったサプライズにすればいいんだ!
……しかし、それまではまだ随分と時間があるな。
「景吾様」
不意打ちのノックと声。気を緩めていたわけではないが、つい今の今まで俺の思考を占めていたの声に驚いて、少し肩がはねてしまった。見られていなくて本当に良かった。
「入っていいぞ」
声を掛けずともタイミングを見計らって入ってくるのだが、しっかりしなくてはと気合を入れ直すために、ドアの向こうに立っているだろうに答える。
「失礼いたします」
相変わらず、今日も無表情だなと思う。それでも冷たい感じはしないし、感情は読み取れないものの、声色は穏やかだった。
いつもクールで大人で、冷静で。すごく頼りになるは、ごく稀に、俺が見ていない時に限ってクスリと笑うことがある。
いや、見てはいないから、笑ったような気配を感じるだけだが。そういえば、未だに笑顔を見せてくれないのは残念で仕方ない。
いつか、俺の前だけでも笑顔を見せてくれればいいのにと思う。別に、声を上げて笑うとかでなくて、微笑むだけでもいいから、の無表情以外の顔を見てみたいものだ。
「ピアノの先生がお見えになりましたよ」
ああ、そうだ。今日はレッスンの日だったな……。本当はピアノをする時間があればテニスをしたいのだが、これも教養を身に付けるためだ。仕方ない。
……いや、待てよ。レッスンが終わってもまだ時間があるし、それまで俺のピアノでをもてなそう。
「、レッスンは中庭でする」
「畏まりました」
今日ほどピアノを弾いていて良かったと思ったことはないかもしれない。練習の甲斐あって、今日は課題も合格点を貰えた。
ピアノのレッスンなど始めは気が進まなかったが、弾ける曲目が増えてきてからはそれなりに楽しくなったように思う。両親の影響でクラシックに馴染みがあったのも大きいかもしれないが。
レッスンが終わり、先生も中庭を後にした今、俺はに贈るべくピアノの音色を奏で続ける。今よりも幼かった頃はお遊戯のような簡単なものしか弾けなかった頃を思えば、俺もよくここまで頑張ったものだなと自分を褒めてやりたい。
一曲目が終わり、二曲目はのリクエスト曲だ。迷わず選んだことを考えると、にとっては思い出の曲なのかもしれない。そういえば、この曲からアナりーぜもするようになったんだったな……。
そんなことを頭の隅で考えながら始めた演奏。いろいろなことを思い出しながら、いつになく集中して弾いている自分がいた。
最後の一音まで丁寧に終えて、よし、と思った直後。
「……?」
ふとの方を見たら、目に涙を滲ませているではないか。苦しげに僅かに眉を寄せているに驚いて駆け寄ると、長い指で目元を拭う仕草。
「ど、どうしたんだ?」
夕暮れの逆光を浴びているは、見上げる俺ではどんな表情をしているのか分からなくて、上着をぐいっと引っ張る。すると、は察してくれたのか身を屈め、「大丈夫ですよ」と俺の手を包み込んだ。
「……泣いてるのか?」
そっともう片方の手で目元に触れてみる。ほんの少しだが、指先に水気を感じた。
もしかして、この曲はにとって良い思いでの曲ではなく、哀しい過去として思い入れのあるものだったのだろうか。頬を伝うほどの涙ではないけれど、が涙を滲ませることなど、今まで一度もなかったのだ、きっと何か深い事情があるんだろうな……。
そう思うと、なんだか俺まで胸が締め付けられて、せっかくの誕生日だというのに辛い思いをさせてしまったと申し訳なくなる。こんなつもりじゃ、なかったのに……。
「景吾様?」
「……な、泣いてなんか、ないからなっ」
「申し訳ございません」
自分のために、とでも言いたいのかっ……ああ、そうかもしれないな。お前が泣けない分、俺が代わりに泣いてやっているのかもしれないぞ。感謝しろっ。
「少しばかり視界が悪くて、景吾様のお顔を見れないのが心苦しい……」
確かめるようにそっと頬に触れてくる大きな手に、思わず自分の手を重ねる。俺はその温かさを感じながら、お前の視界が悪いのは涙で滲んでいるからだろう、と心の中で呟いた。
「素晴らしい演奏でした」
「……そ、そうか」
「有難うございます。私は今、とても幸せです」
その言葉が何を意味するかは、俺にはきっと分からない。年齢や誕生日は知っていても、どうやって生きて、どのような人間と出会って、何があったかなんて、俺は全く知らないのだから。
もしかすると、過去の出来事が切っ掛けで笑えなくなった、という薄々感じていた説は、事実なのかもしれない。
「景吾様、そろそろお屋敷に戻りましょう」
「……ん」
手を解いて、そっと俺の背に回ってくる手。促されるようにして一歩踏み出せば、視界に映った景色は青みがかっていて、庭を照らす小さな灯りが美しかった。
はさっきまで涙を滲ませていたというのに、すっかりいつも通りで、改めて見てみると泣いたような痕も全く残っていなかった。よく通るその声もいつも通りで、少し腹立たしい。
「ずるいぞ、」
「さて、何のことでしょう」
そう言って俺の涙に濡れた頬に触れる手はやっぱり優しくて、本当にずるい。
「は、やっぱり意地悪だな」
そしてずるい。大事なことなので何度も言うが、は本当にずるい。
「でも、今日はお前の誕生日だから、特別に許してやる」
俺様に感謝しろ! 後ろを付いてくるを振り返って言い放てば、立ち止った俺と同じように、ぴたりとその足が止まった。
呼吸をするたびに吐く息が、ふわりと淡く広がる。それはも同じで、当たり前のことなのに、なぜかそれがとても嬉しかった。
「おい、。自分の誕生日を忘れたわけじゃないだろうな」
「いえ、覚えておりますが」
言うと同時に、一歩近づいたは、何がしたいのか俺のすぐ側でまた止まった。
「……?」
「有難うございます」
「ふ、ふんっ……まだ礼を言うのは早いぞ!」
「というと、先程の素晴らしい演奏だけでなく、他にもまだプレゼントを頂けるのでしょうか」
「当然だろ! あれが誕生日プレゼントだとでも思ったかっ!」
「申し訳ございません」
ふん、分かればいいんだ。俺を誰だと思っている。跡部景吾だぞ。それに、さっきのピアノ演奏はあくまでもへのもてなしであって、本番はこれからなんだからな。
「帰るぞ、!」
「はい」
ああ、寒いはずなのに、なんだか凄くポカポカする。顔が熱い。耳も熱い。後ろを付いてくるの足音と、俺の足音と、それから、色々。
はやる気持ちを抑えきれずに早くなる歩調など、今更気にしない。帰ったらそのまま部屋に呼んで、俺の全てをかけて作った最高傑作をプレゼントしてやる。今まで両親にだってしたことがない俺が、特別に贈るんだからな!
なんて、思い切り俺様に祝われればいいんだ!
2013.04.01